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せんこーこーこーりーしゃった!った!

無職日記③ 右膝を5針縫ったけどそのままライブに行った時の話

 大学時代は脚を出す格好をしていたが、今は全くしていない。もう良い年だからとかではなく、約2年前に右膝を5針縫う怪我をしてしまったからだ。今も傷跡が残っている。と書くと、悲劇のヒロインっぽくなってしまうが、今となっては愉快な思い出なので、文の練習がてら解禁しようと思う。 

 

 2018年2月3日土曜日の朝、私は同期たちと一緒に会社の駐車場にいた。業務上、原付に乗れるようになる必要があるため、その練習で集められたのだ。例年ならば、教習所で練習をさせてくれるそうなのだが、今年はスケジュールが合わず、会社の駐車場でさせられることになった。駐車場は車を20台ほど停められる広さがある。

 その日、私はとても浮かれていた。なぜならば、午後は推しのライブに行く予定があったからだ。こんなダルい練習、さっさと終わらせて会場がある大阪に飛びたい。それしか考えていなかった。それが諸悪の根源だった。

 「いきなりシートに座ってハンドルを回すというのは怖いと思うから、最初はハンドルをゆっくりまわしながら原付を押して歩いてみるんだ。ハンドルは本当に少しだけまわすんだよ。じゃないとスピードが出て、足が追いつかなくなるからね」という上司の指示のもと、同期たちは難なく乗りこなしていった(原付に乗れるようになった今ならば、この指導がおかしい・原因の一つだと思えるけど、当時は何も分からなかったのである)。ライブが楽しみすぎて完全に上の空だった私は、上司の言葉を適当に聞き流し、先に乗った同期にどれくらいまわせば良いのかなんて情報収集もせず、自分の順番を待った。

 そしていよいよ自分の番がやってきて、事件は起こった。話を聞いていない私は、シートに座っていないのに、思いっきりハンドルをまわしてしまったのだ。

 当然、原付は凄い勢いで前進した。ハンドルを持ったままの私は原付に引っ張られた。すぐに手を放せばよかったものの、元々運動神経が悪く、どんくさいのと、突然の出来事にどうすればいいのか分からず、私は走ってその原付のスピードについていくことしか出来なかった。自転車を押して走るやつの早い版とイメージしてくれると分かりやすいのではないかと思う。めちゃくちゃマヌケである。

 どうしようと思いながらふと前を見てみると、ブロック壁があった。まずい、このままでは凄い勢いでコンクリートに衝突してしまう。絶対に鼻が折れる。腐っても女なので、顔だけは避けなければいけない。ならば仕方ない、弁償覚悟で原付を投げ倒すしかない、多分どこか怪我をするだろうけど、顔よりはマシだ。ということを、引っ張られている5秒ほどの間に判断し、(正面衝突を避けるため)横に倒すようにして原付から手を放した。原付だけが倒れ、自分はその場に立ったまま、と出来たらよかったものの、スピードが出ていたものだから、原付に引っ張られるようにして私も一緒に滑りこけた。顔は無傷だったのと、下敷きにならず済んだというのが不幸中の幸いである。

 痛みとしては、石に躓いてこけた程度、これくらいの痛みなら小学生の頃体験したことがあるレベルだったので、「あはは、私って本当にどんくさいよねw」と笑って流せば良いか、と考えながら、手についた砂を払っていると、指導をしてくれていた先輩が駆け寄ってきてくださった。

「あはは、すいません」

 と私が笑ってみせると、「なんで笑ってられるん!」と結構キツい口調で突っ込まれた。

「あんた、それ笑えんで」

 原付の弁償代が凄いのだろうか、と思ったが、先輩が私を指さすものだから、その先追ってみると、血まみれになった私の右膝があった。ズボンの右膝部分だけが綺麗に破け、膝はパックリと割れていた。いつのまにか、その膝には親指の爪くらいの大きさの石と小指の爪くらいの大きさの石が埋め込まれていた。全体には砂がまぶされているという粋な計らいつきだ。私は漸く大変なことが起きていることに気が付き、途端に、痛みが大きくなっていった。

(どうしよう!!! これじゃライブ行けないじゃん!!!!!!!!!)

 だくだくと流れていく血を見ながら、真っ先に私が思ったことはそれだった。弁償代や膝に傷が残ることや社内で噂になる恐れよりも、ライブだった。

 そのライブには何が何でも行きたかったのだ。なぜならば、今日観に行くのはPANDORA(※小室哲哉氏と浅倉大介氏による音楽ユニット。いろいろあって小室氏が芸能界を引退することになったため、ユニットは実質活動休止に、最初で最後のライブツアーになってしまったのだ)。今日を逃すと二度と見られないかもしれないライブだったからだった。意識を失ったならまだしも、片膝を怪我したくらいで――意識がはっきりしているのに、諦めるわけにはいかないのだ。早くこの膝をなんとかしなければ。

「えーっと、救急箱……はないですよね、水道のあるとこに行ってきていいですか? この石、浮かせたら取れますよね?」

「そんなんで良いわけないじゃろ! ほら、病院いくから私の車乗って!」

「え”?!」

 幸い、病院が会社から非常に近いところにあったため、約15分後には病院にいた。先輩が上手く交渉してくださり、すぐに受診が出来た。右膝部分だけがぱっくりあいているズボンで血を垂れ流しながら歩いていた私はとんでもないホラーだっただろう。

 

「あー、これは手術になりますね。石とか砂とかを取り除いた後、膝を縫いましょう」

 みたいな内容のことを先生に言われ、私は本気で焦った。手術にではない。ライブに行けないかもしれない自分にだ。

「きょ、今日これからライブに行くんですけど、それって結構時間掛かるんですか……?」

「あんた何言っとん! そんなんで行けるわけないじゃろ!」

 ド正論の先輩。しかし私は本気だった。医師と看護師は苦笑いを浮かべていた。

「まあ、1時間くらいあれば終わるでしょう」

 時刻は12時(くらいだったと思う)。ライブの開演は16時半。今から手術をして終わるのが13時過ぎ、それから家に帰って服を着替えて電車に乗ると14時半、岡山駅から新幹線に乗って新大阪駅に付くのが15時半、そこからライブ会場までそう遠くないので……間に合う。

 早速手術は始まった。仰向けになった私の右膝に麻酔が打たれる。その後、よく分からない液体を大量にかけられる。冷たい。感覚があるじゃないか。なのに、先生は手術道具に手をかけようとしている。そんな鋭利なものがこれから私の膝に当てられるのか。絶対痛い。意識も飛ばさせてくれたら良かったのに。しかし、不思議なことに、全く痛くなかった。麻酔は効いていた。触れられている感覚は分かるのに、肉が剝き出しの膝にピンセットを入れられようが、針を刺されようが、痛みは全く分からなかった。

 先生や先輩と普通に会話が出来る程度には和やかに、そして流れるようにして手術は終わった。体を起こすと、さっきまでぱっくり開いていた膝は黒い糸で塞がれていた。5針。たった5針だが、つい数時間前までまっさらな膝だったことを思うと、さすがにくるものがあった。「これは一生残る跡になるんだろうなあ。こんなグロテスクな姿になったからにはもう脚を出すような格好は出来ないな」と思ったりした。しかし。

(いや、そんなことより今はライブに行くことが最優先だ!!!!)

 私は別にモデルではないのだ。膝がどうなったところで人生に大きな影響はない。傷跡を隠す方法なんていくらでもあるだろう。だけど、今日のライブは今日を逃すともう二度と観られないかもしれない。だから何が何でも観に行かないといけないのだ。幸い、歩けないというほど重傷じゃない、普通に歩ける。先輩には「なんであんたそんなスタスタ歩けるん?!」と言われた。興奮で痛みに対して鈍くなっていたのだろう。

 病院から出て、上司に謝ったり先輩にお礼を言ったりした後、急いで自宅に戻った。ちなみに、普通に自分の車を自分で運転して帰ることが出来た。膝のことが家族にばれたら間違いなく引き留められるので、こっそりと家に上がり、綺麗なズボンに履き替えた後(右膝は包帯でぐるぐる巻きなのに、ロングスカートを履くのではなく、服に合わないからという理由でタイトなズボンを無理矢理履いた。バカである)、すぐに駅へ向かった。早く新幹線に乗らなければということで頭がいっぱいだったので、この時のことはあまり覚えていない。

 

 なんとか新幹線に乗り込むことが出来て、ホッとしていると携帯が鳴った。直属の上司からだった。現場にはいなかったからまだ知らないはずなのになぜ、と思ったが先輩が報告してくれたらしい。

「怪我大丈夫?! 縫ったって聞いたんだけど?!」

「5針縫っちゃいました、あはは。でも大丈夫です、普通に歩けますし」

「そ、そうなの……? それならいいけどさ……。今日はもう安静にしておくんだよ?」

 はい、と答えたが、新幹線はとっくに兵庫県に突入していた。デッキの窓から入りこむ日の光がとても眩しかった。

 あっという間に新大阪駅に着き、地下鉄に乗り換え梅田に向かう。今日のライブ会場はビルボードライブ大阪。そう、ライブハウスといってもビルボードなのだ。行ったことがある人は分かると思うが、ビルボードは座って食事を楽しみながら観るタイプのライブハウス。つまり、膝にあまり負担を掛けず観られるのだ。本当に運が良かった。もし今日が普通のスタンディングのライブだったら私は断念していたかもしれない。なんてことを思っているうちに、会場に到着した。ギリギリ到着になるかと思っていたが、開場前に到着することが出来た。「ククク……ここに膝にとんでもない爆弾を抱えている人間がいるとも知らずに……」と思いながら、よく分からないお洒落フードをつまんで開演を待てるくらいの余裕があった。まさに火事場の馬鹿力。

 

 ライブは最高だった。行って本当に良かったと思った。私は興奮していた。せっかく大金払って大阪に来たのだ、これだけで帰るわけにはいかない。この有り余るエネルギーを発散しなければいけない。私は地下鉄に乗り込み、桜川へ向かった。アメージングコーヒー(EXILEのTETSUYAさんプロデュースのコーヒー店。私は浅倉大介氏のファンでありLDHのファンでもあるのだ)に行くために。

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 これはその時に撮った、膝に爆弾を抱えた女によるオタクサイコパススナップである。爪は見せられない。

 コーヒーは美味しかった。しかし、夜風を浴びながら見知らぬ土地で飲むコーヒーは私の頭を冷まさせるには充分だった。

(私、何してるんだ……?)

 アメコは桜川駅から徒歩10分くらいのところにある。よく歩いてこられたな。っていうか、よく岡山から梅田まで、そしてここまで自分の足で来られたな。ここで足の痛みが襲ってきても誰も助けてくれないぞ。めっちゃ怖。そうなる前に早く帰らなければ。私はコーヒーを飲み干す前に再び歩き始めた。ちなみに残りのコーヒーは歩きながら飲んだ。

 とりあえず、万が一大阪で倒れても良いように家族に居場所だけは教えておかなければ、と自宅に電話を架ける。妹が出た。

「あ、もしもし? 私なんだけど、母さんは? あ、おらんのん。じゃあ伝言しといてほしいんじゃけど。私今日原付の練習で大怪我して、膝縫ったんよ。まあそれは大丈夫なんじゃけど、今日ライブじゃったから今は大阪おるんよ。じゃけー、帰るの遅くなるけーって伝えといて」

「は?」

 当然の反応である。ちなみに、地下鉄のホームで電話をしたのだが、隣にいた人にも「は?」という顔で見られた。自分でも話しながら意味が分からなかった。

 

 膝の痛みで動けなくなる、なんてことはなく、無事に終電で自宅に戻ることが出来た。あんなに歩き回ったのに、糸は全くほどけておらず、医者ってスッゲー!!!!と思った。しかし、浴室で体を洗うため膝の表面を床につけた時に激痛が走り、やっぱり自分はとんでもないことをしてしまったのだと気付かされた。水に触れさせてはいけないといわれたので、ラップでぐるぐる巻きにした膝を見ながら、行き場のない怒りに一瞬襲われたりもした。

 だけど、すぐに「ま、いいか」という結論に至った。それは約二年経った今も変わらない。なぜならば、推しを前にしてしまえばこんな傷、なんてことないものだからだ。膝に消えない傷を負ってしまったという出来事だけならば、暫く立ち直れないでいたかもしれない。だけど、私にはそれを上回る、「二度と見られないかもしれない推しの最高のライブを観られた」という最強の事実がある。だから、普段はネガティブな私だが、その時は不思議と暗い気持ちにならなかった。オタクで良かったと心から思った。そうして、私の長い一日は漸く終わったのであった。

 あれから約二年経ったが、PANDORAは未だに活動を再開していない。だから本当にあの時行って良かったと思っている。膝はというと、やはり傷跡は残ったままだ。だけど、ストッキングをはけば、「なんか膝が汚い人」程度には回復している。それは回復に入らないというツッコミは受け付けない。とにかく、あんな最高のライブを観られたのだからこれくらい安いものである。いや、普通の人は無傷で観られるもんだよというツッコミも受け付けない。

 

(了)

  

 という、原付の練習で怪我して5針縫ったけどすぐにライブに行って楽しかっただけの話をいかに長く書けるかという遊びでした。膝が見たい人は言ってくれよな(※オフの知り合いに限る)!!! ちなみに原付は壊れてなかったし、労災と認められたので修理費も治療代も負担せず済んだし、なんなら精神的苦痛代みたいな名目で金も貰えたしで膝以外は無傷で済んだ。でも同期の中で一番最初に原付に乗って仕事させられることになった。私がめちゃくちゃにした原付で。血も涙もねえクソ会社だぜ。けど原付乗っていろんなところに行くの自体は楽しかったんだよね。

 

 

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 なんか最近amazonの貼り付けばっかしててアフィカスブログみたいですが、このブログは完全非営利自己満足ブログです。